医療コラム

しみ・しわ治療の落とし穴― ③

しみ・しわ治療の落とし穴― ③

本町6アーケード内 ぷらっと本町ビル2階
本町皮膚科 院長 渡辺力夫
日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医

 

昨年の、しみ・しわ治療の落とし穴― ②に引き続き、「しみ」の診断とレーザー治療について、もう少し詳しく述べてみたいと思います。

 

「しみ」の6割を占める老人性色素斑では、1回のレーザー照射で済む場合がほとんどです。そばかす(雀卵斑)は、2〜3ミリの小さな褐色調の「しみ」が顔に多発しているものです。これも1回のレーザー照射で、ほぼ消失します。太田母斑(青あざ)は、青色調・褐青色調の「しみ」が散在・融合したもので、まぶた・ほほ・側頭部などにみられます。Qスイッチレーザー(保険適応)で、ほとんどが目立たなくなります。褐色調のものは3回程度、褐紫色・紫青色調のものは3〜5回の照射が目安になります。

 

扁平母斑は、出生時または生後早期にみられる茶色の「あざ」であり、境界明瞭で色調が均一なものです。Qスイッチ・ルビーレーザー治療が保険適応ですが、消失しても再発したり、治療前より色が濃くなる場合もありますので、部分的な試験照射から開始します。

 

肝斑(かんぱん)は30〜40歳代の女性に多く、眼の周囲を避け、左右対称で境界明瞭な褐色調の「しみ」です。ひたい・ほほ・口囲にみられます。レーザー治療は有効性が確認されておらず、むしろ色が濃くなることさえあります。太田母斑などが肝斑と誤診されていることも多いですが、その場合は見かけ上、レーザーが有効であったようにみえます。悪性黒色腫(ほくろの癌)・基底細胞癌などは、手術・切除が基本です。

 

レーザーでは、癌細胞が周囲や体内に撒き散らされ、取り返しがつかなくなることもあります。顔のほくろ(母斑細胞母斑・色素性母斑)に関しては、ほくろの細胞(母斑細胞)が中年以降に皮膚深部へ移行する傾向にあります。その場合には、Qスイッチレーザーなどを照射しても再発します。

 

色素をもたない母斑細胞や隆起性のほくろには、パルスレーザーが無効であり、手術・切除するしかありません。5ミリくらいまでの顔のほくろであれば、通常の切除でもほとんどが目立たなくなります。ほくろにおいては、皮膚科で最も悪性である悪性黒色腫との区別が重要です。わずかでも悪性の疑いがある場合には、手術・切除して病理組織を必ず確認しておく必要があります。

 

ある施設で顔の「しみ」ということで施術を受けている患者さんがいました。自由(自費)診療でしたので、1回につき、1万円〜2万円前後の施術料を支払っていたそうです。何回か施術を受けた後に、私が診察することになりました。しかし、その「しみ」の正しい診断は基底細胞癌でしたので、さっそく手術となりました。

 

「しみ」は診断名ではありません。心配・不安なとき、何かおかしいと思った場合には、施術者に「診断名」を聞いてみることです。レーザーを施行しないほうが良い「しみ」、レーザーが無効な「しみ」も多く存在します。診断名がはっきりしない場合や、幾度も施術を受けて高額な費用を払い続けている場合には、十分な注意が必要です。
( 注:文中のレーザー照射の回数は目安であり、確実に消える回数ではありません。)