医療コラム

温泉の効用

温泉の効用

新潟市中央区万代3―1―1 新潟日報メディアシップ3F
さくら皮膚科医院 院長 西條 忍
(社)日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
(一社)日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
(一社)日本温泉気候物理医学会 温泉療法医


 日本三大美人の湯―川中温泉(群馬県)・龍神温泉(和歌山県)・湯の川温泉(島根県)―の温泉成分の共通点は?それは、弱アルカリ性(皮膚表面をぬるぬるすべすべに)でナトリウムイオン(皮脂と共に石鹸の役目)とカルシウムイオン(湯上りパウダー効果)が多いことだそうです。入浴後の
肌が美しいというわけです。

 皮膚病に良いと昔から言われている温泉が硫黄を含んでいるのは、それが疥癬に効いたからです。昔は、疥癬という、ヒゼンダニが皮膚に寄生する伝染病が蔓延し、それが痒い皮膚病の代名詞でした。硫黄の入浴剤で疥癬は治りますが、逆に湯負け(乾燥性湿疹)で痒くなる場合もあります。アトピー性皮膚炎には良くないのです。

 硫黄分を含んだ強酸性の草津温泉(群馬県)が、皮膚表面の黄色ブドウ球菌を殺菌することにより、アトピー性皮膚炎に効いたという報告もあります。しかし、この種の温泉水の刺激感は、皮膚炎のある人には辛いでしょう。『(日本一の強酸性泉であるため)どの温泉よりも肌を刺激し「元気力」を目覚めさせる』とうたっている玉川温泉(秋田県)では、皮膚炎がない私もピリピリ感が耐えがたく早々に退散しました。

 それに対して、南フランスでの1日入浴体験はとても快適でした。そこでは、アトピー性皮膚炎などのひとが通常2週間以上滞在して、常駐の医師の診察を受けながら水治療を続けます。美しい自然に囲まれた田舎町のこの施設で、無味無臭の湧水をぬるい水温で使用し、入浴後には必ず塗り薬や保湿クリームを塗るというのがポイントです。

 日常の雑事から離れて清浄な空気の中でのんびりと過ごすことによるリラクゼーション効果こそ、貴重で最大の温泉の効用だと思います。